- BLACK THRUSH -


||| WORDS LOG |||

視線

廊下で逢う貴方と
よく目が合う事に気付いてから。

もう貴方の方が見られない。


通り過ぎるたびに。
貴方とすれ違うたびに。

そっと目を伏せて。


すれ違って十歩で 少し振り返る。
傍に誰もいないときだけ。



どうか貴方が振り向きませんように。


グラス

グラスを掴んだ貴方の右手の線が
酷く色っぽくて ドキドキした。

まだ子供だと思っていたのに
男の顔をしたりするから
下手に離れていられなくて

まだ知りたい
もっと知りたい

そんな気持ちで次も逢うから。


零距離

ふたりの あいだの きょり。
つかず はなれず。

でも やっぱり まだ とおい。
えんりょして
いっぽ ひいて
すこし わらう。

きみの においが わかるくらいまで
ちかづいても いいだろうか。


新しい場所

ここには、
まだ、
何もない。

けれど、
私の隣に、
貴方がいる。


春の花風に吹かれて
夏の星空を見上げて
秋の月夜に休んで
冬の雪道を歩いて


少しづつ
少しづつ
二人で刻んでゆこう。


二人の、
新しい時間がここから始まる。


可視光線

急に部屋に駆け込んできた
貴方の睫毛の先に宿る雫。

部屋の明かりに反射して
きらきらと光る。

息を弾ませて
雨水を滴り落とす貴方の姿が

妙に艶っぽいから
まともに見られなくて。


吐息

口づけを、交わす。

密やかに
甘やかに。

逢えない時間を埋めるかのように。


貴方は、
優しい愛撫を繰り返す。

唇に。
指に。
首筋に。



柔肌をなぞる唇に
思わず吐息が出て。


硝子の花

そっと抱きしめて
もっと抱きしめて

このまま花のように たやすく折れてしまっても

もっと抱きしめて
ずっと抱きしめて

貴方の腕の中で息絶えても

とろけるような
貴方の空気に今はただ包まれていたくて。


帰る音

まだ外が暗いうちに
貴方は帰ってしまった。
鍵がポストに落ちる音で貴方が帰った事を知る。


ソファーには、たたんだ毛布が置いてあって

グラスはもう、洗ってあって

貴方がいなくなっていて。


こうして痕が残っていなければ
昨夜のは夢かと錯覚できるくらい。

貴方の匂いが少しでも残っているうちに

ソファーの毛布をベッドに運んで
もう少し寝ていよう。


透明な月

ゆうべはあんなに輝いていた月が
今ではもう
輪郭線ですらぼんやりとしか見えない。

夜にだけ本心を現す君は
この空に漂う昼間の月より

更に
尚更に

儚くて。

殊更に 愛おしい。


携帯メール

しばらく話してなかったから
もう忘れられたかと思ってた。

メールが来ただけで
ドキドキするなんて。

何回も何回も何回も打ち直して
返信するのはほんの一文。

「待ってなかったよ、返事なんて」
そんなそぶりを見せながら
返事を待って
そわそわ
そわそわ。


我儘

あだなじゃない 貴方の名前を呼びたい。
あだなじゃない 私の名前を呼んで欲しい。

その他大勢と一緒にされたくなんかない。

貴方には私より大事なものがたくさんありすぎて
私のことを特別扱いにする枠なんてないんでしょ?

でも私は我儘だから。
貴方のことを名前で呼びたい。
それが許されるのが私だけであって欲しい。



叶えて欲しいけど口に出せなくて。


道標

貴方を見る度に
私の中に沸き上がるのは
強い憧れと、それより強い焦燥感。

貴方がそんなに前を歩いているから
走っても走っても追いつけなくて。

貴方が好きだからこそ
負けたくない。

私を待って立ち止まることをしなくても
歩く速度を緩めなくても構わない。

消えることのない道標を
貴方へと続く道標を。

いつか貴方に追いついて
肩を並べて歩けるように。


罠・U

何だってしてみせる。
愛しい貴方を掴まえておくためなら。

何だってしてみせる。
貴方が望むこと全てを。


笑ってみせるのも
怒ってみせるのも
甘えてみせるのも
拗ねてみせるのも

泣いてみせるのさえも。

貴方を捕らえて離さない、
甘い甘い罠。


不安

貴方が私を大事にしてくれる度
貴方が私を愛してくれる度

私は不安になってしまうの。

私はちゃんと
貴方のこと愛せてる?




気付かれたくないけど
気付いて欲しくて。


貴方が 私が離れていくこと を怖れる以上に
私が 貴方が離れていくこと を怖れていることを。


ヒトリの夜

「何か用?」なんて意地悪なコト言わないで。
ただ、貴方の声が聴きたかっただけだから。

遠慮しながらかける電話に
あなたはいつもつきあってくれるのね。
逢いたい時に逢えないくせに
そんなに優しくしないでよ。

気まぐれだとしても嬉しくなっちゃうから。

貴方も今夜は独りで寝るの?
寂しいという一言さえも今は嬉しい。

他の誰もいなければいいのに。

この時間が一秒でも長く続けばいいのに。

キスをして。
その腕に抱かれる夢を今夜は見させて。


ずるい

ほんの些細な仕種や
ほんの些細な言葉で
こんなにも傷つくのは

貴方のことが、好きだから。


傷ついて。
傷ついて。


なのに。


ほんの些細な仕種や
ほんの些細な言葉で
全部を許せちゃうのは

やっぱり貴方のことが好きだから。



堕ちる瞬間はいつも
激しく心 揺さ振られる
息ができない
瞬きもせずに一瞬で


そう。
きっと私
何度でも貴方に恋をする。

どんなに苦しくても
忘れようとしても
貴方に逢うと恋に堕ちるから。


ギリギリ

好きになると
隙ができる。


付け込まれたら私の負けね?


裏心

好きだけど
振り向かないで

貴方が振り向く前までが
私の恋なの。

貴方が
振り向いて
駆け寄って
私を抱いたら
恋が終わるから

好きだけど
振り向かないで

矛盾してる?
矛盾してるよ。
でも もう それで 構わない。


十日夜

一つだけ残った校舎の明かりが
水面に反射して。

私と貴方の姿を
ぼんやりとうつしだす。

時折揺れる紫煙と
他愛もない話
微かに聞こえるサイレンの音が
感覚を狂わせていく。

日常の中の非日常か。
非日常の中の日常の光景なのか。

どうかもう少しこの瞬間を。